小美玉の巨樹を巡る -小川編-

暮らし

悠久の時を刻む巨樹

私たちが暮らす地域で最も歴史あるもの、それが巨樹です。神社参道の木は人の手によって植えられたものも多く、社殿より古い木も少なくありません。時代が移り変わる中、巨樹は存在し続けました。

ひたち巨樹の会(※)のメンバーでもあるタウンレポーターの坂野が、小美玉市の巨樹をご案内。今回は旧小川町エリアの巨樹を訪ねます。ツアー参加メンバーは、有名インフルエンサー齋藤さん、紅一点菊田さん、小美玉市役所職員の中本さんの3人です。

潮宮神社スダジイの幹周りを計測してみました(写真提供:中本さん)

巨樹の定義は?

環境省の調査では、地上1m30cmの位置で計測した幹周りが3m以上の木を巨樹と定義しています。潮宮神社(いたみやじんじゃ)のスダジイを測ってみましょう。測り方は人間のウエストと一緒です。なんと!5m46cmもありました。「小美玉市内で最も太いスダジイ」だと思います。

潮宮神社がある小美玉市倉数地区。昔は鉾田の海岸から府中(国府があった石岡市)まで塩が運ばれた「塩の道」の中間拠点として栄えました。塩の蔵などもあったそうです。神社の創建は992年と古く、土の参道は周りより数十センチ下がっています。これは長年に渡って人々が参拝してきた証であり、そのせいで参道両脇の巨樹は根がむき出しになっています。この場所に流れた長い時間を物語っていますね。

「本殿に向かうとそこは静かな冷んやりとした空間、柔らかな土の感触、土と苔の混ざりあったようなにおい、まちとは違った空間の心地よさ、インターネットだけでは知ることができない情報が沢山で、本当に参加してよかったと思いました。これから四季折々の樹々の良さを楽しみたいと思います 」。(参加者:菊田さん)

「潮宮神社の前をウォーキングや自転車で通っていました。巨木の管理は専門職のサポートがないと大変だなとも感じました。」(参加者:齋藤さん)

潮宮神社住所:小美玉市倉数1

下馬場鹿島神社の大スギ

続いてやってきたのが下馬場鹿島神社(しもばばかしまじんじゃ)です。こちらも非常に歴史ある神社で、平安時代807年の創建です。大スギは小美玉市指定天然記念物で幹周りは5m40cm、なんと樹高は40mもあります。

「巨樹の大きさもさることながら、樹高の高さに驚きました。光を求め上へ上へと延びていく姿は、小さな幼子が空に手を延ばしている姿の様にも見えました。私たちはその延ばした先の枝葉を目で追い、隙間から空を見ることができる。枝葉からのぞく空と太陽の陽に美しさを感じる。まるで遥かかなたの空を見ているようでした」。(参加者:菊田さん)

下馬場鹿島神社のイロハモミジ

プレートが抜けない!

樹種が記された案内プレートが、イロハモミジの幹に挟まっていて抜けません。きっとプレートが落ちていて誰かが何気なく挿んだのでしょう。その後木が成長して抜けなくなったということでしょうか。

下馬場鹿島神社の大ケヤキ

茨城県内で最も太い木に触れてみる

『日本の巨樹・巨木林 関東版(1)』(環境庁・1991)によると、幹周順位表で第1位に記されているのがこの下馬場鹿嶋神社の大ケヤキです。その幹周りは11m6cm。驚異的なサイズです。第2位は大子町法龍寺のイチョウ、第3位はつくば市一ノ矢八坂神社のケヤキ。

巨樹に触れてその生命力を感じてみます。人間が生きる時間とは比較にならない木の樹齢。この時たまたまいらした近所の氏子さんによると、昨年、枯れ枝を除去したり手当を行ったそうで、樹勢が回復したとのこと。確かに若い枝が増えているように感じました。

「一本の巨樹に関わる歴史と風土があり、その土地の特色を見ることもできると聞いて頷けました。何百年という時間を生きてきた背景には、永く人目に触れなかった、信仰の対象として守られてきたのかと思っていましたが、地元の氏子さんたちに守られ存在してきたことを知り畏敬の念が生じました」。(参加者:菊田さん)

下馬場鹿嶋神社住所:小美玉市下馬場530

素鵞神社のケヤキ

今回訪ねた巨樹は全て神社の参道や境内にあることから、最初に参拝を済ませたうえで観賞しました。最後にやってきたのが素鵞神社(そがじんじゃ)。1529年創建の由緒ある神社で、小川の祇園祭が有名です。御朱印の人気は県内有数で参拝客が絶えません。

素鵞神社のケヤキに寄生した植物(写真提供:中本さん)

「市の木」はケヤキ

小美玉市が「市の木」に選定しているケヤキ。市内各地に巨樹が点在しており、部室地区にはケヤキ通りもありますね。選定理由は市のホームページによると「台地にしっかりと根を張り、放射状に大きく枝を張る姿は雄大で、力強く空へ向かって成長していく姿は、将来へ向け伸びゆく小美玉市にふさわしい木です。」ということで、市のシンボルとして市の花コスモス、市の鳥シラサギとともに2006年(平成18年)に制定されました。

素鵞神社のケヤキは、幹周り5m60cm、市指定天然記念物。御神木として大切にされています。巨樹には様々な植物が寄生しています。「宿り木」として大切にされる例が多いのも神社における巨樹の特徴です。

素鵞神社のケンポナシ

夫婦木のケンポナシ

神社お隣りの旧小川小学校は、水戸藩で初めての郷校(きょうこう *1)「稽医館(けいいかん  *2)」があった場所で、昔は見事なケンポナシ(茨城県指定天然記念物)がありました。ケンポナシは薬草でもあるので本草学(ほんぞうがく・中国の薬物学)研究のために植えられたそうです。素鵞神社のケンポナシ(市指定天然記念物)はその稽医館由来といわれています。幹周り3.7mで二又に分かれた幹から夫婦木(めおとぎ)として大切にされています。

「小美玉市に巨木があるのか??と思っていましたが、ケンポナシはお初で驚きました。確かに古い神社にケヤキはありますが、気が付きませんでした。有意義なツアーでした。ありがとうございました。」(参加者:齋藤さん)

素鵞神社住所:小美玉市小川古城1658-1
*1 :江戸時代から明治初期にかけて、藩士の教育や庶民の教育のために各地に設けられた学校。
*2:医学の研究所

巨樹巡りのススメ

今回の巨樹巡りは2021年(令和3年)11月に行いましたが、巨樹は常緑樹も多く、季節を問わずよいものです。落葉樹については、たくさんの葉が生い茂る夏に光合成を行って栄養を蓄えて成長します。葉が色づく秋の情景も魅力的です。葉が散って冬眠に入る冬は枝があらわになり巨樹本来の樹観を楽しめます。そして中でも最もオススメな時期が春の若葉が芽吹く新緑でしょう。今回訪ねた巨樹はほんの一部に過ぎません。小美玉市にはまだまだたくさんの巨樹・名木が存在しています。

1988年(昭和63年)に結成された巨樹愛好家団体です。植物分類学の先生や、巨樹写真家をはじめ、巨樹が大好きな人たちが集まって、定期的に観察会や写真展を開催しています。

神社仏閣であれば、まずは参拝させていただきましょう。根や地表を踏み固めると木が呼吸できなくなり痛みます。柵が設けられている場合は決して柵の中に入ることのないように注意しましょう。

  • コメント ( 1 )

  1. こむぎ

    小美玉にこんなに大きな木が育っていること、知りませんでした。
    遥か昔からずっとここにいて、私たちを見守ってくれているんですね。
    とても神秘的に感じました!

坂野秀司

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常磐百景(じょうばんひゃっけい)の坂野秀司(さかのしゅうじ)です。 普段は茨城県の桜を調査記録しています。 運営しているウェブサイト「茨城県の桜」では、小美...

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